大阪電気通信大学

異なる特徴の紙を用いた作品の制作

制作の背景

大学に入学した時からグラフィックデザインやパッケージデザインに興味があり、紙について調べるようになったことがきっかけです。卒業制作でもパッケージデザインをしてみたいと考え、古紙パルプを原料としたパルプモールドによる箱型のパッケージを制作し、その利用の可能性について考察しました。

紙の特徴

紙には、折り曲げたり切ったりできることのほか、多くの特徴があります。

  • 折る、曲げる
  • 書く、描く、印刷する
  • 破る、切る、ちぎる
  • 重ねる、束ねる、綴じる
  • 溶かす、再生する

紙の種類

紙は、情報を印刷する目的のほか、梱包や衛生用品など広範囲の目的で使われている身近な材料です。
紙を展示・販売しているペーパーギャラリーを見学し、印刷用の紙だけでもとてもたくさんの種類があることを知りました。
日本の紙パルプ製造業は、紙の生産では第1位の中国、第2位のアメリカに次いで、日本は第3位です。パルプ生産量では第9位で、紙の消費量は世界で第7位です。また古紙回収率は79.4%で世界第1位です。

新聞や雑誌の発行数の減少

日本新聞協会の調査によると、新聞(一般、スポーツ紙、朝刊、夕刊)の発行部数は、2000年には53,708,831部が発行されていましたが、2023年には53%減の28,590,486部にまで減少しています。
今回の制作では身の回りの古紙を用いましたが、私の家ではすでに新聞の購読契約をしていないので、新聞紙は身近な古紙から除外しました。

通販の利用増加による廃棄段ボールの増加

日本で1年間に生産される段ボールは140億m²を超え、1m幅の段ボールに換算すると、地球の355周分にも相当するそうです。全国段ボール工業組合連合会の調査によると、通販・宅配・引越し用の段ボールの消費量は、2016年に478,942,000m²だったものが、2022年には27%増の608,978,000m²に増加しています。
コロナ禍で通販の利用が急増したことが一因ではないかと考えられ、身近なところでも街の使用済みダンボール回収ボックスがいっぱいになって溢れているのを見かけることが増えました。

脱プラスチック

2020年に、レジ袋の有料化が全国で開始されたことで、脱プラスチックへの関心が高まりました。
脱プラスチックとは、プラスチック製品を極力減らし、別の素材のものを利用することで、地球温暖化や海洋プラスチック汚染問題に取り組もうというものです。
身近なところでは、例えば、レジ袋の代わりにエコバッグの利用を呼び掛けたり、紙ストローの導入などが脱プラスチックの取り組みといえます。他にも、ペットボトル飲料の側面にあるプラスチックラベルを小さくしたり、ラベル自体を無くした例や、外装をプラスチック製から紙製に切り替えたことで国内だけで年間380トンのプラスチックを削減した商品の例もあります。
脱プラスチックは、SDGsの17の目標のうちの、「12 つくる責任 つかう責任」や「17 海の豊かさを守ろう」とも深く関係する話題として語られることが多くあります。
パルプモールドを用いたパッケージデザインの登場もこの「脱プラスチック」の流れが関係していると思います。

パルプとは

パルプとは、紙を作る際に使用する木材や草などから抽出した繊維で、紙はパルプの繊維同士が絡み合うことでできています。
パルプの主成分はセルロースです。セルロースは、水で攪拌するとバラバラになりますが、水分が抜けると互いに繊維が絡み合って、接着剤や糊がなくても自己接着する性質を持っています。再び水に浸すと結合が壊れて簡単にほぐれます。
現在、日本ではほとんどの紙が「木材パルプ」と「古紙パルプ」を原料にしています。
パルプには、木材・非木材・古紙といった種類があります。

  • 木材パルプ
    木材パルプは針葉樹・広葉樹のような樹木を材料にしたものです。
    ・N材:針葉樹を原料とする。繊維が長く、強い紙になる。
    ・L材:広葉樹を原料とする。繊維が短く、滑らかで柔らかい紙になる。
  • 非木材パルプ
    ケナフ(アオイ科ハイビスカス属の植物)、バガス(砂糖を取った後のサトウキビの搾りかす)、竹、稲藁などのような樹木以外の植物を利用したものです。伝統的な和紙もコウゾやミツマタの樹皮の繊維を用いたもので、紙幣などの特殊な用紙にも非木材繊維が用いられています。
    森林を伐採しないという観点から、環境にやさしい材料と考えられがちですが、実際には品質が不安定だったり、採集時期が限定されかつ保存性が悪いこと、木材に比べると繊維が少ないためパルプ繊維収率が低いことで大量の廃棄部分が出ることなどから、安定した大量生産が必要な製紙原料としての木材の代替になる可能性は低いと考えられています。ただし、稲わらや麦わらなど、食料に由来する農産廃棄物を有効利用する方法については研究開発の価値があるのではないかと思います。
  • 古紙パルプ
    古紙パルプはその名前の通り古紙を材料にしたもので、身の回りのものだとダンボールやボール紙のグレーの部分などが挙げられます。

パルプモールドとは

パルプモールドとは、古紙を水で溶かし、型に流し込んで乾燥してできる紙成形品です。
主に新聞紙、雑誌、段ボール、OA用紙などの古紙が原料ですが、どんな古紙からでも製造できます。 同様の形状を金属、木材、プラスチックなどで成形することと比較すると、CO2排出量が少なく、環境負荷の低減に貢献できる点が注目されています。

パルプモールドの利用

  • 衝撃吸収材
    家電製品などの梱包で、発砲スチロールの代わりに使用されています。
  • 紙容器
    卵のパックや紙食器などのように、使い捨ての用途のものに使われています。
  • パッケージ
    従来は、衝撃吸収剤や紙食器などのように高級品や高品質なものに使われることはあまりありませんでしたが、近年は表面を美しく仕上げる加工や、加工後に表面に印刷する技術が開発され、パッケージデザインにも利用され始めています。

制作の内容

色々な白い紙を使ったカードゲーム の制作

ペーパーギャラリーでたくさんの種類の紙があることを知ったことで、いろいろな紙の見た目や手触りの違いを感じられる遊びを考えてみました。
ケント紙、画用紙、タント、レザック、マーメイドなど7種類の紙をカードサイズにカットしたもので、手触りで紙の種類を当てたり、紙の種類の組み合わせを考えるゲームにしてはどうかと考えました。
紙の種類の違いは楽しめましたが、もっと紙の特徴を活かした作品を作りたいと考え、当初から興味があったパッケージデザインを考えてみることにしました。

先行研究

名古屋モウルド株式会社によるパッケージの作例
UZU アイライナーの旧パッケージ

衝撃吸収材などのように見えないところでの利用ではなく、化粧品のパッケージとして、美しく、今までにない表現ができている点に驚きました。
平面的でありつつも、表面はアイライナーの形に沿って盛り上がっているという立体的な形状が取られており、豊富なカラーバリエーションも相まって、薬局、コスメショップのような化粧品を取り扱う店舗でも一際目を引くパッケージだと感じました。
2023年からの新パッケージは製造・成型過程での環境への影響をさらに配慮した筒状のものにリニューアルされており、現在はパルプモールドによるものではありません。

名古屋モウルド株式会社におけるパルプモールドの製造方法

  1. 原料の製造
    古紙を水で溶かし、異物やインクを除去する。
  2. 金型の作成
    鋳型に水抜き用の穴を開ける。
    金型の内側に細かいネットを貼り、型から外れやすくする。
  3. 成型
    原料の中に金型を入れ、吸引して材料を型に吸着させる。
    乾燥しきらないうちに型から外し、乾燥させる。
    乾燥後に再度型にはめて、綺麗な形にプレス成型する。
    外周をカットにして仕上げる。

制作のポイント

  • 通常の平面的な展開図を元にした設計では表現できない凹凸の形状を表現してみたい。
  • 同じ形でも、材料の違いによって手触りや風合いの違いを表現できないだろうか。
  • 表面にグラフィックを印刷せずに、パッケージの形状から中身を想像できるようなものが作れないだろうか。

制作のプロセス

  • 型の制作
    3Dモデリングしたデータを3Dプリントする方法で型を制作しました。
    型に水抜き用の穴を開けました。
    吸引して材料を型に吸着させる設備がないため、両面の型をモデリングし、挟み込むことで成型する方法としました。
  • 3DCADソフト Autodesk Fusion360
  • スライサー Z-Suite
    (スライサーとは、STLなどのポリゴンデータをG-codeに変換するソフトです)
  • 3Dプリンター Zortrax M300 Dual

原料づくり

  • 材料
    身近な古紙には、段ボールや新聞紙、紙緩衝材(ボーガスペーパー)などが挙げられます。今回の卒業制作では、私自身の暮らしに身近な古紙である段ボール、紙緩衝材(ボーガスペーパー)、クラフト紙、牛乳パックを材料にしています。

プロセス

  1. 材料を水に浸し、2日ほどそのままの状態にします。
  2. 牛乳パックの表面にある印刷面をパック本体から剥がします。
  3. 牛乳パックの内側のポリエステル面も表面と同様に剥がします。
  4. 両面とも剥がし終わった状態の牛乳パックを細かく千切り、また水に浸します。
  5. ミキサーで繊維がほぐれるまで粉砕します。
  6. ドロドロの液状になるまで混ざりあえば、パルプの完成です。

流し込み

  1. パルプを型に流し込み、万力でしっかり挟んで型に原料を押し付けて水を抜きます。
  2. 食品乾燥機で50度で7時間ほど乾燥させます。
  3. 乾燥させたら型から取り外します。

試作

  • 最小サイズでの制作
    最初は小さな型を制作し、凹凸形状が成形できるかどうか試しました。水抜き用の穴は片面だけでも十分水を抜くことができました。また、仕上がりサイズの型だと取り出しにくかったので、周囲にはみ出た部分を作ることで取り出しやすすることにしました。はみ出た部分は乾燥後にカットします。

  • 型のサイズの拡大
    大きなサイズの型でも成形できるかどうか試しました。
    最初の小さな型を3つ繋いだサイズの型を作り、「コ」の形に折り曲げて接着して箱型のものを制作しましたが、継ぎ目が目立つことと、閉じた形なのでパッケージとして利用できないものになってしまいました。

  • 折り曲げて組み立てる方法
    継ぎ目を目立たなくするために、複数のパーツを組み合わせるのではなく、1枚の展開図で箱になるものを考えました。
    しかし、型に流し込むことで最初から立体成形をする方法ではないので、パルプモールドらしい方法に修正したいと考えました。

  • 立体的な型の制作
    立体的な形状の型に原料を流し込み、上から抑えることで整形するための型を考えました。
    しかし、この方法で圧力を掛けた場合、底の部分にパルプが全て溜まってしまい、底面だけが分厚く、側面がとても薄い状態になってしまいました。
    そこで、型の側面部分に小さな穴を複数開け、そこからシリンジで側面部分にパルプを注入してはどうかと考えましたが、これもうまくいかず、型の内側に均等に材料を行き渡らせることが難しいことがわかりました。
    さらに、底面に対して垂直な側面の型では、出来上がったものをうまく取り出すことができません。
    側面は底面よりも広い傾斜(テーパー)を付けた型でなくてはいけないとわかりました。

  • 型の改良

    ここまでの点を改良し、箱の上下を一体として成形し、中央で折り曲げて箱型にするデザインを考えました。

3Dプリンタでの出力時間

  • 上側 約27時間
    水抜きの穴やサポート材の出力により、多くの時間がかかりました。
  • 下側 約12時間

成果・考察

パッケージの提案

パッケージデザインを考える時、実質的な商品は中身のお菓子であるため、パッケージは本来なくても良いとも思えますが、中身だけを見ても味や食感などをイメージしにくい場合もあります。パッケージデザインは、味や食感だけでなく、高級感やカジュアルさ、お店の雰囲気、会社のイメージなど、さまざまな価値を付加する役割があります。
インパクトのあるロゴや写真を用いたデザインではなく、紙の素材感を活かすことで中身の味や形状を想像させることはできないだろうかと考えました。

原料の違いから感じたこと

段ボール

  • 思ったよりも表面が滑らかで、強度もある。
  • いかにもリサイクル材料という感じがした。食品のイメージに合っていないかもしれない。

クラフト紙

  • パルプの状態でもポロポロ崩れやすく、乾燥後も脆い。繊維が長くて硬いせいかもしれない。
  • 色が暗めでチョコレートや焼き菓子に合いそうな感じがする。

紙緩衝材(ボーガスペーパー)

  • 薄緑の色が綺麗に出て、ラムネやキャンディーのイメージに合う感じがする。
  • 繊維が柔らかく成形しやすかった。ほぼ100%再生紙なので、元々繊維が細かく柔らかい紙だからかもしれない。

牛乳パック

  • 今回使った材料の中で最も滑らかで強度がある。
  • 真っ白で綺麗なので、和菓子や繊細なお菓子が見栄えするように感じる。

表面の凹凸や紙の色から中身を連想できるもの

  1. 尖った凸凹のもの
    ・金平糖
    ・四角いグミ

  2. 丸い出っ張りのもの
    ・キャンディー
    ・ラムネ

  3. 不規則な凹凸のもの
    ・琥珀糖
    ・割った板チョコ

製品として耐えるクオリティにすることは難しかったですが、質感や形状から中身や味を想像したり、中身だけでは伝わらないイメージを持たせることができたのではないかと思います。 今後パルプモールドを商品パッケージに利用するケースはもっと増えるのではないかと思いました。

参考文献

作者プロフィール

木下 綾香

学科:ゲーム&メディア学科

研究室:ヴィジュアルデザイン研究室

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