研究背景
本研究ではストーマ装具の交換時期の検出について行った.ストーマ装具には問題点として,面板の定期交換が困難という問題がある.面板は粘着質でありストーマ部分に張り付けて使用されるが,使用から期間が経つと面板とストーマの間に尿や便が入り込み,剥がれ落ちや便尿の漏れという問題があるため定期的な交換が必要とされる.しかし患者自身で交換するため交換には慣れが必要とされている.中には交換に慣れていない看護師なども交換時期を誤ってしまうケースがある.
このため交換時期がわからない患者自身が交換時期を把握し交換できるようにすることができれば,交換時期の誤りや便尿の漏れを防ぐことが期待できる.ストーマ装具の変化は患者の尿や便の量によって時期が異なり面板の色の変化や溶解具合が要素とされるため,本研究では機械学習ツールを用いて人工的に作った面板の交換写真を学習し交換時期の検出の有無とその向上について研究を行った.最終的にはストーマ使用者自身が交換時期を把握し自立した交換ができるようにすることが目的である.
研究内容
検証実験内容は,人工面板を作りそれを学習データに,被験者に送ってもらったストーマの画像を正解データに使用.学習データをAI画像生成ソフトで複製させた.Teachable Machineを用いた機械学習ツールを使い学習データ,正解データ共にグレースケール化,HSV化,平滑化,解像度変更,鮮鋭化,ガウシアンフィルタを行い,ストーマの交換時期検出において機械学習がどの画像編集に左右されているかを調べた.
正解率の目標は8~9割を目標とした.結果として「交換する時期」の正解率が8~9割,「交換しない時期」の正解率が7割弱である.可能であるならば「交換しない時期」の正解率をもう少し高くするのが今後の課題である.

交換しない時期

交換する時期
無加工で検証
加工なしで検証を行った.
画像の加工なしでは,「交換しない時期」に正解率が振り切れる結果となった.これについては色に加え,面板の繊維の模様がはっきり写っているなど,本来注目してほしい面板の汚れ以外の情報量が過多になってしまったものだと思われる.また,スマートフォンで撮影を行ったため,画像の画質が良すぎたのも同様の原因だと考えられる.
HSV化で検証
画像をHSV化し,検証した.

H化では,画像の大半が黒く表示され,判別の基準にしたい面板の汚れすら肉眼でも確認が不可能なため,機械学習させるのは困難であると感じた.
S化においても情報量を削ぎ落としすぎたため,正解率が交換しない時期の片方に偏ったものと思われる.同様に機械学習させるのは困難であると感じた.
V化では前者2種類の加工に比べて交換時期の判別がしやすいと感じたが,正解率は「交換しない時期」に極端に偏り,好ましくない結果となった.しかし,後述するグレースケール化と似た画像加工なためV化から加工を広げるのも可能性があるかもしれない.
グレースケール化で検証
画像をグレースケール化し,検証した.グレースケール化とは白から黒までの段階(=階調)をグラデーションにより表現する方法であり,中間色のグレーが存在し微妙な濃淡を表現できるのが特徴.色の種類を少なくすることでどのように精度の差が出るのかが目的である.

グレースケール化ではまだ偏った正解率であったが前述までの加工より「交換する時期」の正解率が高くなった.色の情報量を削減することでストーマの形,面板の汚れで判別するものと推測する.本研究で行った色を変える加工の中ではグレースケール化が一番好ましい結果であった. そのため以降ではグレースケール化を元にして加工をしていく形をとった.
平滑化で検証
画像を平滑化し,検証した.平滑化とは画像をぼかすことである.平滑化により,ノイズやエッジを消したり目立たなくすることができる.面板の繊維など細かい情報を削減でき,情報量の差がどう影響するのかを調べるのが目的である.

平滑化では肉眼で観察できる範囲を限度にぼかし半径を調節した.数値が小さければ「交換しない時期」の正解率が高くなり,対して数値を大きく設定すればするほど「交換する時期」の正解率が高くなる傾向があった.ぼかしが弱いほど情報量が多くなり本来見るべき面板の汚れに対する注目が下がり,逆にぼかしを強くすると面板の情報量が疎かになるものだと思われる.そのため中間のほどよい数値が適切である.今回行った検証では5pxが「交換しない時期」と「交換する時期」の正解率がどちらも5割を超えており最も良い結果であった.
解像度変更で検証
画像の解像度を変更し,検証した.本研究で使用している元の画像は1200×1200pxの解像度であるが,それを低pxにして再び1200×1200pxに戻す.そうすることにより,画質を荒くすることができる.画質を落とすと精度にどう影響するのか調べるのが目的である.

解像度変更においても肉眼で観察可能までを限度に検証した.「交換しない時期」の正解率は低画質から高画質にするにつれて高くなり,「交換する時期」の正解率は高画質から低画質にするにつれて高くなる.平滑化と同様に高画質なほど情報量の過多が課題で,低画質では反対に情報量の過少が課題になる.中間のほどよい数値が適切であると思われる.
鮮鋭化で検証
画像を鮮鋭化し,検証した.鮮鋭化とは先程の平滑化とは逆で画像のエッジを強調して濃淡変化を大きくする処理である.情報の濃度がはっきりと分かれるのでそれが精度にどう影響するか調べるのが目的である.

鮮鋭化ではエッジを強調することから情報量を過度に増やしてしまい,汚れに焦点が合わないと思われる.正解データである被験者のどの画像を入れてもほぼ「交換しない時期」と結果が返ってくることから適切に判断するのは難しいのではないかと考えた.
ガウシアンフィルタ処理で検証
画像をガウシアンフィルタ処理し,検証した.正解率が高かった加工を組み合わせることでさらに高い正解率を出せるのではないかと考えた.ガウシアンフィルタとはピクセル周辺の平均値を計算することによってノイズを平滑化し,画像のぼやけやエッジの損失を軽減する効果がある.画像を滑らかにすると精度にどう影響するか調べるのが目的である.

正解率が高かった加工を組み合わせることでさらに高い正解率を出せるのではないかと考えた.結果としては「交換する時期」の正解率が高く振り切っているため過学習を起こしたのではないかと考えた.過学習を防ぐためエポック数を下げるとエポック数60で「交換する時期」の正解率が9割ほどで,「交換しない時期」の正解率が7割に届き,目標の数値は達成できた.ガウシアンフィルタにも加工の度合いがあり,調整すれば「交換しない時期」の値をさらに上げられるかもしれない.
まとめ
本研究では,機械学習ツールであるTeachable Machineを用いて人工面板そして被験者の画像共に加工なし画像,グレースケール化,HSV化,平滑化,解像度の変更,鮮鋭化,ガウシアンフィルタ処理で加工し,エポック数の大小に関する比較を調べた.
まとめとして今回行ったストーマ交換時期判別の機械学習による正解率を高くするには,画像をグレースケール化する,解像度を160pxにする,ガウシアンフィルタ処理を合わせて行い,エポック数を60に設定すると最も良い結果を得られた.つまりほどよい情報量の削減が良いと結論づける.
今後の課題としては,今回時間がなく検証ができなかったガウシアンフィルタ処理の数値の調整を優先して行うべきと考える.そうすることで「交換しない時期」の正解率をさらに高めることができるかもしれない.また,研究初期に試しで使用したD435のカメラで面板の撮影をすると良いかもしれない.D435はスマートフォンで撮影するより画質が劣っていると感じたことにより使用を続けることは断念した.しかし,本研究により画質の劣りは正解率の向上に繋がるとわかったため,同様の検証実験をD435で撮影した面板の画像で行うと新しい結果が得られるかもしれない.
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